医学部で一つ後輩だった彼です。小児科医としてのスタートをきったばかりでした。しかし先週、自らの手で命を絶ったそうです。子供の未来を守る貴重な人材が失われました。
彼は僕を慕ってくれていました。腹を割ってよく話しました。一見、不真面目に見えますが、不器用ながらも自分と向き合う勇気のある男でした。 しかし、彼の苦悩は自らの命を絶つほど暗く深かったのでしょう。
先月、彼からメールをもらっています。精神的に追い込まれ小児科医局を辞めるとのこと。しかし、お互い前に進もうね、とやり取りをしていたのに。僕ももう少し何か出来たのではないかと考えてしまいます。せめてもう一通メール書いていたら。しかし、彼は帰ってきません。誰を責めたらいいのでしょうか。どうしたら、こんな悲劇を防げるのでしょうか。彼の死は海面に現れた氷山の一角にすぎません。
日本の医師は高いプロ意識を持ち、昼夜を問わず、休日を返上して患者のために働いています。ただし若い医師の教育はどうでしょうか。限界なく働く労働者という存在だけではなく、未来の医療を担う存在として教育されているでしょうか。そのシステムはあるのでしょうか。過大な重圧のかかる若い医師を守るシステムはあるのでしょうか。
自分は日米双方のシステムの中で教育を受けています。日本の医師育成は個々の努力に負うところが大です。そのなかで身体的・精神的衛生はほぼ無視されています。一方で、米国では医師卒後教育は第3者機関のもと管理・標準化され、若い医師は労働者としてだけではなく教育される存在とみなされています。 例えば、患者・医師双方を守るために、米国の研修医の労働時間は週80時間以内と決められています。これらを守らない研修プログラムはその認可を取り下げられます。
どちらのシステムが優れているという問題ではありません。ただ、医師個々の努力に過大に負う現在の日本の環境、これではさらなる悲劇を招くことは必至です。同じ医師として、患者・医師双方が幸福になることができるシステムを考え、そして現況を変えていきたいと思います。我々は彼の死を無駄にするわけにはいきません。
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